デイブ・ウェイのスタジオにて、ハードウェア・コンソールやアウトボード、ソフトウェア・エミュレーションやT-RackS 5などなど、ミキシングに関するテクニックについてインタビューさせていただきました。シグニチャー・プリセットも公開されています。
デイブ・ウェイは、4度のグラミー賞を受賞し、多くのゴールド / プラチナ ディスクに関わってきたエンジニア / プロデューサーです。彼が参加した作品の幅はとても広く、例えば次のようなアーティストのプロジェクトに参加しています:フィオナ・アップル、P!nk、シェリル・クロウ、グウェン・ステファニー、フー・ファイターズ、マイケル・ジャクソン、プリンス、スティーヴィー・ワンダー、ポール・マッカートニー、ジェーンズ・アディクション、デスティニーズ・チャイルド、ベイビーフェイス、ボーイズIIメン、エリック・クラプトン、アリス・クーパーなど。
IK MultimediaのDave Kerznerは、デイブ・ウェイのスタジオにて、ハードウェア・ミキシング・コンソールやアウトボード・ギア、さらにはイコライザーやコンプレッサーのソフトウェア・エミュレーションやT-RackS 5などの、レコーディングやミキシングに関するテクニックについてインタビューさせていただきました。彼にはT-RackSを気に入っていただき、T-RackS 5で使用できる40種の新しいシグニチャー・プリセットもご提供いただきました。プリセットは他にもトム・ロード・アルジやニック・デイヴィスといった伝説的エンジニアによるものが公開されており、無料でMy Productsページからダウンロードできます。ビギナーからプロフェッショナルまで、実際にデイブ・ウェイが行っているスタジオでの作業を知って、このプリセットをさらにご活用いただくため、今回のインタビューをご紹介いたします。どうぞお楽しみください。
Dave Kerzner:こんにちは、本日はインタビューさせていただきありがとうございます。これまで数多くのアーティストの作品をこのスタジオで手掛けてきたデイブ・ウェイ氏に、ミキシングや実際の作業についてお伺いさせていただくことができ、読者にも非常に喜んでいただけると思います。それではまず初めに、リード・ボーカルのミキシングについてお伺いさせてください。
デイブ・ウェイ:ボーカルについては沢山あるけど、まず初めに私はどのボーカルにもロー・エンドへフィルターを掛けるね。これは次にどんなコンプレッサーが来る場合でも同じ。このフィルターはできる限り丁寧に。もしかしたらこれは驚かれるかもしれないね、ロックのような音が密集したサウンドの場合は特に。フィルターは、200 Hzから掛けることができるケースもあるくらいだよ。でも基本的にはサブ・ベースとなる70 Hzあたりから掛けることが多いかな。コンプレッサーは、まず初めにハードウェアの1176を使うね。ソフトウェアだとT-RackSのBlack 76だね、これは非常に優れたエミュレーションだと思うよ。
ハイパス・フィルターにはこれを使うといったものはありますか?
特にこれじゃないといけないというものはないかな。一般的な用途として使えれば問題ないからね。ProToolsのものでもいいし、私は長年SSLのGシリーズやEシリーズを使ってきたから、それをエミュレートしているBritish Channelも非常に良い選択だと思う。スロープが鋭いものであれば、どんなものでも大丈夫だよ。
それではコンプレッサーについてもお聞かせいただけますか?
コンプレッサーはブルー・ストライプまたはブラックの1176を使うよ。ソフトウェアだとBlack 76だね。アタックは中間から速めのセッティングで、レシオは4:1、リリースはかなり速めにするね。コンプレッションはかなり強めに叩くイメージで、ゲイン・リダクションは7, 8からときには10 dBに振れるくらいまでかけることもある。そしてシンガーによりけりだけど、歯擦音が強い場合にはディエッサーを掛ける。なだらかだったり強めだったり、そのあたりも臨機応変にね。他にも歯擦音の問題にはオートメーションを書いたり、フレーズの始めの場合にはフェードを掛けたり、色々な方法で対処してるよ。
EQについてはいかがでしょうか?
ジャンルにもよるけど、ロックにはBritish Channelが効果的だと思うよ。私はSSLのコンソールと共に育ったから、SSLのエミュレーションがソフトウェアで沢山のアプリケーション上で使用できるのは嬉しいよ。
これまでどのSSLコンソールを使用されてきましたか?
これまで全て使ってきたけど、今は自分のスタジオWay Stationにある6000 Eをメインに使っているよ。Eシリーズが好みだから使えるときはそれを使っているけど、よりクリアさが欲しいときはGシリーズを使うね。特にボーカルに関しては、Gチャンネルの使用頻度が高い。ゲインとQが連動しているから、艶やかなサウンドを得やすいんだ。他にも艶が欲しい場合は、EQP-1Aも使うね。みなさんにはぜひ私のプリセットから、どの設定が好みかを試してみて欲しいね。GシリーズとEシリーズ、つまりはBritish ChannelとWhite Channelを切り替えてどちらがトラックに合うかを選んでみるのもいいと思う。私はSSLのエミュレーションは特に中域が良いと思っていて、クランチ感とバイト感を得ることができるんだ。
リード・ボーカルには、Eシリーズ、Gシリーズのチャンネル・ストリップのようなパラメトリックEQで、どのようなセッティングを行いますか?
大体はまず初めに、10 kHz前後のトップ・エンドをシェルビングで数dB加えるね。持ち上げる周波数帯は必要に応じて前後させるよ。次に、トラックにフィットし存在感を得ることができる魔法のミッド・レンジを探すのに時間をかける。それは1 kHzから5 kHzの辺りで、Q幅は非常に狭い帯域幅かその中間かだね。場合によってはハイパス・フィルターで低域を処理したうえで、さらに低域をフィルターでカットするときもあるよ。それからボーカルにグリット感を加えたいときはSSLチャンネル・ストリップのコンプレッサーをfast attackで使うから、British ChannelやWhite Channelは非常に良い選択肢だと思うね。コンプレッサーは場合に応じてだけど、グリット感があるのが好ましいロック・サウンドでは最適だね。あとはEQでロー・ミッド、周波数だと大体300 Hzから400 Hzをカットすることで、過度に持ち上げることなくクリアさを引き出すことができるね。
ロー・ミッドをカットするのは数dBですか?
そうだね。Q幅を広めにとることもあるよ。レコーディング時に問題があるときには注意深く扱わないといけないけど、基本的にはロー・ミッドをカットすることで心地よいクリアさが得られるんだ。
ロック・サウンドのボーカルにさらなるグリット感が欲しいときは、British ChannelのコンプレッサーとBlack 76をチェーン内で同時使用しますか?
もちろん。コンプレッサーの2段掛けは全く問題ないよ。1176をボーカルに使うとクラシック・ロックらしいサウンドが得られるから、グリット感が欲しい場合にさらにコンプレッサーを併用するのは私もやるよ。楽曲に応じて他のコンプレッサーを使ったり1つだけ使ったり、その辺りは場面に応じての使い分けかな。さっきも言ったけれども、私は速めのアタックが好みで、リリースについては少しポンピングがあるような速めの設定で探り始めて、それがスムーズになるように遅くしていく。
他にボーカルに使用するプロセッサーはありますか?
基本的には今までの処理を経た後に、ディレイやリバーブを加えていくね。先に元のボーカルをしっかりと整えた上で、その後にプレート・リバーブへと移る。場合に応じてショートとロングを使い分けたり、よりタイトにしたい場合はルーム・リバーブに変えたりもする。ここまでが基本の流れだけど、T-RackS のEQ-73のようなNeveタイプのEQを使うことで、よりスムーズなサウンドにしたりもするね。
SSLはハード寄りなサウンドだから、ソフトな暖かみのあるサウンドを得るために1073タイプのEQを使うんだ。あとはそうだね、Saturator Xのようなテープ・サチュレーションを加えるプラグインもいいと思う。ボーカルに心地よいフィーリングとサチュレーションを加えることができる。テープ以外の他のサチュレーション・モードも、倍音を加えるのにいいしね。
IK Multimediaは引き続きトップ・エンジニア、プロデューサー、アーティストへの独占インタビューを掲載していきます。ご期待ください!